OEMとは?種類や目的、ODM・製造委託との違いを徹底解説

企業が自社ブランドの商品を販売する際、生産を外部企業に委託する「OEM製造」は、コスト削減や生産力の拡大に役立つ手法です。
近年、さまざまな業界で活用され、プライベートブランド(PB)商品の多くもOEMによって製造されています。
本記事では、OEM製造の種類や目的、PB・製造委託との違い、メーカー選定のポイントを詳しく解説します。
OEMを活用して効率的に製品開発を進めたい企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
- OEM製造とは
- OEM製造の多様な種類
- OEMとODM・PB・製造委託との違い
- OEM製造の目的
- OEM製造のメリット
- OEM製造のデメリット
- OEM製造が取り入れられている商品・業界例
- OEMメーカーの選定ポイント
- OEMを製造する流れ|発注から納品までの6ステップ
- まとめ
OEM製造とは
OEM製造とは、企業が他社に製品の製造を委託し、自社ブランドとして販売または使用する方式です。
一般的に2社間で契約を結び、製造を請け負う企業が委託元のブランド名で生産・納品します。「OEM生産」「OEM供給」とも呼ばれます。
近年、化粧品・アパレル・自動車業界などで広く活用され、市場における主要な生産方式のひとつとなっています。
私たちの身近な製品にも、多くのOEM製品が含まれています。
OEM製造の多様な種類
OEM製造にはさまざまな形態が存在し、分類の仕方も企業によって異なります。ここでは、代表的な3つの分類方法を紹介します。
分類方法 | OEMの種類 | 特徴・メリット |
---|---|---|
①委託者と製造業者の技術レベルによる分類 | 垂直的分業(技術レベルに差がある場合) | 技術力の高い企業が、技術力の低い企業に製造を委託する方式。委託者が技術指導を行うケースもある。 |
水平的分業(技術レベルが対等な場合) | 委託者と受託者が同等の技術力を持ち、相互にOEMを提供し合う方式。企業間の協力によって競争力を向上できる。 | |
②OEMメーカーの対応範囲による分類 | 生産のみを受託 | 受託者は委託者の仕様に従い製品を製造し、ブランド名で納品。開発コストを抑えられるのが利点。 |
開発から生産までを受託 | 商品企画から関与し、委託者の要望に沿って製品を開発。オリジナリティの高い製品を作れるのが強み。 | |
③製品企画をどちらが行うかによる分類 | OEMメーカーが企画・開発を行う | OEMメーカーが製品のアイデアを考え、ブランド企業に提案。ブランド企業は開発の手間を省き、自社ブランドで販売できる。 |
ブランド企業が企画・開発を行う | ブランド企業が仕様を決め、OEMメーカーに製造を依頼。完成品の管理権や所有権はブランド企業が持つ。 |
このように、OEM製造は多様な形態が存在し、目的や状況に応じた適切な方式を選ぶことが重要です。
OEMとODM・PB・製造委託との違い
OEMと似た用語としてODM・PB・製造委託がありますが、それぞれの意味は異なります。
用語 | 概要 | OEMとの違い |
---|---|---|
製造委託 | 企業が他社に製品の製造を委託すること。 | OEMは製造委託の一種。製造委託という大枠のなかにOEMが含まれる。 |
ODM(OriginalDesignManufacturing) | OEMに加え、製品の企画・設計までを委託する方式。 | OEMよりも受託者の関与が深く、委託者は設計・開発の手間を削減できる。 |
PB(プライベートブランド) | 流通業者(スーパーやコンビニなど)が企画し、自社ブランドとして販売する商品。 | OEMと同じく製造は外部委託するが、PBは流通業者主体のブランド商品を指す。 |
OEMは、製造委託の一形態であり、自社ブランドの商品を他社に製造してもらう仕組みです。一方、ODMは開発から製造まで委託する方式で、PBは流通業者が販売する自社ブランド商品を指します。
OEM製造の目的
企業がOEMを利用する目的は、事業フェーズごとに異なります。
ここでは、市場導入期・成長期・成熟期の3つのタイミングでの目的を解説します。
①市場導入期:参入リスクの軽減とコスト削減
新しい市場に参入する際、自社工場を持つには大きなコストがかかるため、OEMを活用して生産コストを抑えるのが一般的です。
また、OEMを利用することで、工場の設立や設備投資をせずに、新規事業の立ち上げが可能になります。
②市場成長期:生産能力の確保と在庫リスクの軽減
製品が売れ始めた成長期には、自社の生産能力だけでは需要に対応しきれないことがあります。
OEMを活用すれば、短期間で生産量を拡大できるため、供給不足を回避できます。
また、OEM先と契約することで生産を柔軟に調整でき、在庫リスクも軽減できます。
③市場成熟期・衰退期:新商品開発へのリソース確保と撤退リスクの軽減
市場が成熟し、競争が激しくなると、新商品開発の余力を確保するためにOEMを活用するケースが増えます。
また、市場が衰退期に入ると、自社工場を維持するコストが負担となるため、OEMへ切り替えることで撤退リスクを軽減できます。
OEMは、企業が企画・販売に専念しながら、製造コストを抑えられる仕組みです。
事業フェーズごとに活用目的が異なるため、適切なタイミングでOEMを活用することが成功の鍵となります。
OEM製造のメリット
OEMは多くの業界で採用されている生産方式です。ここでは、OEMを利用する際のメリットを委託側(ブランド企業)と受託側(OEMメーカー)の観点から解説します。
委託側(ブランド企業)のメリット
①設備投資・人件費をかけずに増産できる
自社の設備や人材では対応できない生産量になった場合でも、OEMを活用すれば新たな投資なしで生産能力を拡大できます。
極端な例では、企画・設計・試作のみを自社で行い、本生産はすべてOEMに委託することも可能です。
また、社内のリソースをコア業務に集中できるのも大きな利点です。
②柔軟な生産体制を構築できる
需要が予測しづらい新商品や季節限定商品を生産する場合、OEMを活用すれば小ロットでの発注が可能です。
また、急な需要増加にも対応しやすく、在庫を抱えるリスクを抑えながら、最適な生産体制を整えることができます。
③在庫リスクを軽減できる
新しい商品を販売する際、売れ行きが不明な状態で大量生産するのはリスクがあります。
OEMを活用すれば、少量から生産できるため、市場の反応を見ながら生産量を調整可能です。
結果として、過剰在庫のリスクを抑え、コスト管理がしやすくなります。
④自社では製造できない商品を開発できる
OEMを利用することで、自社設備では対応できない新しい商品開発が可能になります。
また、OEMメーカーの技術力やアイデアを活用することで、より競争力のある製品を生み出せるのも強みです。
受託側(OEMメーカー)のメリット
①在庫を持たずに利益を得られる
OEMメーカーは、委託企業からの注文に基づいて製造を行うため、完成品を在庫として抱える必要がありません。
そのため、余剰在庫のリスクを負うことなく、安定した収益を確保できます。
さらに、委託企業との関係が強化されることで、継続的な受注につながる可能性も高くなります。
②委託企業の売上増加がOEMメーカーの利益につながる
OEMメーカーは、自社でマーケティングや販促活動を行う必要がありません。委託企業が製品の販売に成功すれば、OEMメーカーの生産量が増え、自然と利益が向上します。
そのため、市場で評価されるOEM製品を生産できれば、長期的なパートナーシップを築きやすくなります。
③生産設備の稼働率を向上できる
OEMを専業としない企業の場合、自社製品の生産量が減少するタイミングでOEM製造を行うことで、設備の稼働率を維持できます。
これにより、生産コストを抑え、工場の運営効率を向上させることが可能です。
④技術力・ノウハウを獲得できる
OEMメーカーは、委託企業との取引を通じて製造技術や製品企画のノウハウを蓄積できます。
特に、高度な技術を持つ企業からOEMを受注した場合、指導を受けることで技術力が向上し、自社の競争力も強化されるメリットがあります。
OEM製造のデメリット
OEM生産は多くのメリットをもたらしますが、注意しないとデメリットも発生します。
ここでは、委託側(ブランド企業)と受託側(OEMメーカー)のそれぞれのデメリットを解説します。
委託側(ブランド企業)のデメリット
①製造ノウハウが蓄積されない
OEMを利用すると、自社での製造を行わないため、製造技術やノウハウが育ちにくくなります。
どんなに優れた製品を販売していても、製造工程の詳細を把握しにくいため、技術的な自立が難しくなる可能性があります。
②原価高騰で粗利が減少する可能性
OEMメーカーに製造を依頼することで、一定の生産コストが継続的に発生します。
特に、原材料費の高騰などがあると、利益率が圧迫されるリスクがあります。
ただし、一部のOEM企業は単なる製造だけでなく、企画やアフターフォローまでサポートするケースもあり、総合的なメリットを考慮して選定することが重要です。
③受託先が競合相手になる可能性
OEMメーカーに製品の製造を委託すると、製品の仕様や生産技術が受託側に伝わります。
その結果、OEMメーカーが独自ブランドを立ち上げたり、他社から同様の製品を受託することで、競合相手となるリスクもあります。
受託側(OEMメーカー)のデメリット
①受託量の変動により利益が安定しにくい
OEMメーカーの利益は、委託側企業の発注量に左右されます。
受注量が急激に増減すると、設備投資や人員確保の負担が増え、工場の運営が不安定になりやすくなります。
②自社ブランドの成長が難しい
OEMメーカーは、委託企業のブランド名で製品を製造するため、自社ブランドの知名度が上がりにくいという課題があります。
高い製造技術を持っていたとしても、消費者の認知度を獲得しづらいのがデメリットです。
③製造技術の流出リスク
OEMメーカーが持つ独自の製造技術やノウハウが委託企業に流出する可能性があります。
特に、水平分業(技術レベルが同等の企業同士でOEMを行うケース)の場合、製造ノウハウが他社に渡り、競合製品が市場に出るリスクが発生します。
OEM製造が取り入れられている商品・業界例
OEMはさまざまな業界で活用されており、多くの企業がOEMを利用して商品を市場に供給しています。
ここでは、OEM生産が盛んな代表的な業界と具体的な商品例を紹介します。
コンビニ・スーパーのPB(プライベートブランド)
コンビニエンスストアやスーパーマーケットで販売されているPB(プライベートブランド)商品の多くは、OEM製造されています。たとえば、セブン-イレブンの「セブンプレミアム」やイオンの「トップバリュ」などが好例です。
化粧品業界
化粧品業界では、多くのOEMメーカーが小ロットから大規模生産まで対応しています。
また、市場調査や製品企画のノウハウを持つOEMメーカーも多く、開発支援まで行うケースもあります。
大手化粧品メーカーのなかには、自社製品を販売しながらOEM事業も行う企業があり、技術力の高いOEMメーカーを選定することで、高品質な製品開発が可能になります。
自動車業界
自動車業界でもOEMは一般的に行われています。自動車メーカー間でOEM契約を結び、一部の車種を相互供給しています。
OEM車は、基本的なスペックは同じでも、エンブレムやボディカラー、アクセサリーが異なる場合が多いです。
ダイハツやスズキなどの企業は、小型車の開発・生産に強みを持っており、他メーカーにOEM供給することで効率的な生産が実現されています。
スマートフォン・タブレット
スマートフォンやタブレットの分野でもOEMが活用されています。例えば、AppleのiPhone・iPadの製造元はフォックスコンです。
OEMメーカーの選定ポイント
OEMメーカーを選ぶ際には、製造能力・品質管理・コスト・納期対応など、複数の要素を慎重に検討する必要があります。
ここでは、失敗しないための選定ポイントを解説します。
①希望の商品が製造可能か確認する
OEMメーカーごとに得意分野が異なるため、自社が求める製品を製造できるか確認することが重要です。
●過去の受託実績(同様の製品を製造した経験があるか)
●製造技術や設備の有無(特殊な工程が必要な場合、対応できるか)
●製品開発のノウハウ(市場調査や処方開発までサポートできるか)
事前に製造可能な商品カテゴリーを明確にし、適したOEMメーカーを選定することが成功の鍵です。
②希望する剤型の開発実績を確認する
特に化粧品や食品・医薬品のOEMでは、剤型(液体・粉末・錠剤など)の開発実績が重要です。
●希望する剤型の製造実績があるか
●最新の技術や特許を持っているか
●品質基準(GMP、ISO認証など)をクリアしているか
メーカーのホームページに情報がない場合は、直接問い合わせて開発実績を確認すると安心です。
③希望するロット数・納期に対応できるか
OEMメーカーごとに対応できるロット数や納期の柔軟性が異なるため、発注前に以下の点をチェックしてください。
●最低ロット数(MOQ):小ロットから対応可能か、大量生産が可能か
●経済ロット数:コストを抑える最適な発注単位
●生産スケジュール:納品希望日に間に合うか、繁忙期の影響はあるか
特に複数のOEM案件を抱えているメーカーでは、納期の遅れが発生することもあるため、契約前に確認しておくことが重要です。
④品質管理体制・品質保証が整っているか
品質管理(QC)と品質保証(QA)は、製品の安全性や信頼性を確保するために不可欠な要素です。
●製造時の品質管理体制が確立されているか
●GMP(医薬品製造基準)やISO認証を取得しているか
●検品・品質検査のプロセスが明確か
●クレーム対応・アフターサービスの体制が整っているか
品質管理が不十分なOEMメーカーを選んでしまうと、クレーム対応やリコールのリスクが増大するため、事前に確認することが必須です。
⑤予算が販売計画に合致しているか
OEMメーカーによって原材料の仕入れルートや製造工程が異なるため、コスト面で差が出ることがあります。
そのため、相見積もりを取ることで、適正なコストでOEMを依頼できるか確認してください。
●製造コストの見積もり
●原材料の仕入れルートやコスト削減の提案ができるか
●納品スピードとコストのバランス
●長期契約時のコスト優遇制度の有無
単に安いOEMメーカーを選ぶのではなく、品質・納期・コストのバランスを考慮して選定することが重要です。
OEMメーカー選定の際には、「製造能力」「品質管理」「ロット・納期対応」「コスト適正」の4つの視点で比較検討することが大切です。
特に、メーカーごとに得意分野が異なるため、自社の製品に適したOEMメーカーを選ぶことが成功の鍵となります。
OEMを製造する流れ|発注から納品までの6ステップ
OEM製造は、製品企画から納品まで複数の工程を経て行われます。
ここでは、OEMの基本的な流れを6つのステップに分けて解説します。
①打ち合わせ
OEMメーカーと発注元企業が製品の仕様や数量、納期、コストについて詳細な打ち合わせを行う段階です。
主な確認事項
●製品の種類・仕様(デザイン、素材、機能など)
●製造ロット数(最低ロット・経済ロット)
●納期(市場投入のスケジュールに間に合うか)
●予算(原価・販売価格のバランス)
OEMメーカーは、自社のノウハウを活かして最適な製造方法を提案し、発注元の希望を実現できるように調整します。
②試作・サンプルチェック
実際の製造に入る前に、試作品を作り、品質や仕様を確認するプロセスです。
試作の流れ
●OEMメーカーが小ロットで試作
●発注元がサンプルをチェック
●修正点があれば改良・再試作
●最終仕様の決定
この段階でデザインや機能、品質基準を明確にし、量産時のトラブルを防ぐことが重要です。
③工場とのすり合わせ
OEMメーカーは、実際に製造を行う工場と詳細な打ち合わせを行い、生産準備を整えます。
確認するポイント
●生産工程の最適化(コストや品質を考慮)
●納期スケジュールの調整
●品質管理の基準
●使用する原材料や部品の確保
この段階でしっかりと調整することで、スムーズな生産体制を確立できます。
④稼働・生産
試作のチェックが完了したら、いよいよ本格的な生産がスタートします。
生産時のポイント
●品質を維持しながら大量生産
●ロスを最小限に抑え、コストを削減
●納期厳守のための進捗管理
●生産中のトラブル対応
生産ラインの効率化を図りながら、品質とコストのバランスを保つことが求められます。
⑤品質管理
製品が完成したあと、仕様どおりに製造されているかを厳しくチェックする段階です。
主な検査内容
●仕様書との一致確認 ●動作不良や不具合の有無 ●数量が発注どおりか ●パッケージや梱包の品質
外観や動作に問題がないかを徹底的に確認し、品質基準を満たさない製品は出荷前に除外します。
⑥納品
品質チェックが完了した製品を、指定の場所へ納品します。
納品時のポイント
●納期厳守
●安全で確実な輸送
●低コストでの物流手配
納品後には、OEMメーカーと発注元がフィードバックを共有し、次回の生産改善につなげることも重要です。
まとめ
OEM製造は、企業が自社ブランド製品を他社に委託して生産する仕組みで、多くの業界で活用されています。
コスト削減や生産力強化といったメリットがある一方で、製造ノウハウの蓄積や利益率の低下といった課題も存在します。
OEMメーカーを選定する際は、製造実績・品質管理・コスト・納期対応などを慎重に検討することが重要です。
適切なOEMパートナーと連携し、競争力のある商品開発を実現することが成功の鍵となります。